Profile
株式会社アクティー 代表取締役社長
喜多 甚一
1966年七塚町生まれ。20歳で起業。
現在(株)アクティーを母体とした10社を越える総合物流輸送企業グループ
BeingGroupのCEOとして約800人を率いる。
近年はタクシー・バス事業にも進出。
しあわせをかたりにしていないんですね。
経営者にとって家とは何ですか?
家は経営者にとって城です。会社も城ですが、家はその本丸ですね。わたしの場合は社長室より家にいるときのほうが仕事に集中できます。ビジネスを発想したり、学習したり、経営戦略の中心を担う場所です。いっぽう城には休息地という側面もありますね。家の設計には頓着ないほうですが、風呂とベッドだけはとりわけこだわっています。風呂は1日の疲れを癒す場所です。多い日は3度入っています(笑)。家は大事ですよ。わたしは日ごろ社員に『家族をもて、家をもて、夢をもて』と話しています。家族は人生の共感者です。人生には悲しいことや苦しいことがいろいろあります。わたしも紆余曲折ありましたが、それに共感してくれる家族がそばにいたから奮起できた。強がらず、おびえず、毎日堂々と生きられるのは家族のおかげです。『夢をもて』とは、夫婦で共通の目標をもて、という意味です。いつか家を建てる。老後は海外で暮らす。そういう具体的な目標を共有しているかぎり夫婦は壊れません。最後に『家をもて』。家計の中で1番高い経費は住宅費です。もし自分が死んでも、家さえ残してあげられたら家族は生計を立てていける。住むところさえあれば何とかなる。未来永劫たいせつな家族を守るためにも家というアイテムは重要だと思います。
家づくりで1番大事なポイントは?
目的を見失わないことです。家づくりの目的は家族がいっしょに住むことではありません。家族がいっしょにしあわせになることです。最近の家づくりを見ていると、多くの人が家族のしあわせをかたちにしていない。予算をかたちにしています。つまり、しあわせをつくるという目的に向かっていない。自転車にたとえましょう。自転車にはレースで走るための競技用自転車がある。かたや買い物などに使う俗称ママチャリもある。同じ自転車でも両者の構造は全然違う。タイヤ1つ比べても、競技用自転車はママチャリの車輪幅の半分以下でしょう。ペダルもチェーンもすべて速く走るという目的のために構成された要素です。家も同じです。家族がしあわせになるための家だったら、玄関も居間も水周りもぜんぶしあわせになるという目的に向かって設計されなければなりません。ちなみにわたしはこれまで4軒の家に住みました。3軒目から目的を考えた。前の家は会社のすぐそばに建てました。社員と会議を開けるように大広間をつくりました。会社を守るための家だったんですね。いまの家は家族を守るための家です。子どもの通学の便とプライバシーの確保を第一に考えて、会社からわざと離れた町を選んだんです。家の設備もそうですね。女房と子どもに決めさせて、わたしは何も口出ししませんでした。
「金澤家屋」とはどんな家だと思いますか?
そうですね。まず、わたしは家族をしあわせにするには社会を豊かにしなければいけないと考えているんです。極端な話かもしれませんが、いくら財産を蓄えても、スラム街のような町では家族をしあわせにできないでしょう。そういう意味で金沢にはみんなで町をよくしようという文化がありますね。たとえばひがし茶屋街を考えてみてください。あそこに暮らす人は生活も商いもともにしながら、みんなで町をブランド化しようとしています。隣近所、街全体が助けあって生きているでしょう。東京では考えられませんよ。同じように家が密集している住宅地でも隣人の顔すら知らない。近所で火事があっても知らんぷりということが多いと思います。ひょっとしたら家づくりの違いにも由来しているのかもしれませんね。この町の人は地域社会との共存もうまいですが、自然との共生も得意です。ご存じのように金沢市には2008年から国連大学の高等研究所が設置されています。これは石川県の里山と里海の暮らしが、人と自然が永続的に共生するモデル地区に選ばれたからです。研究所長ののあん・まくどなるど氏は『日本全国広しといえども、これだけ環境がととのっている場所はない』と語ってました。こういう共生文化を活かした家こそが、金沢らしい家。『金澤家屋』と言えるんじゃないでしょうか。